トランスサイエンスのコールセンターはどこに?(もやもや一考察)

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トランス・サイエンス。
「科学に問うことはできるが、科学(だけ)では答えることのできない」領域。

低線量被曝
遺伝子組み換え
地震予測に津波防災
温暖化
etc・・・

こうした事象に対しての不審・不安といったコミュニケーション問題(リスクコミュニケーションの領域かな)が発生するたびに、トランスサイエンスのコールセンターがあればなと思う。




● 問合せ場所があるという安心

たとえば、企業が提供する商品なりサービスなどに疑問やクレームがあれば、製造元や販売元のお客様窓口に問い合わせればよいし、企業の対応が悪ければ、第三者機関に情報をあげるという手もある。

製品なら「製品安全協会」
商品サービスなら「国民生活センター」
広告なら「日本広告審査機構JARO」

あたりだろうか。

身近な公共財や近隣トラブルなら自治体窓口、警察、裁判所。


いずれにしろ何となくでもどこに行けばよいかは想像がつく。


そこには、聞けば答えてくれるという気持ち、安心感がある。
(安全であるかどうかのエビデンスはともかく)


しかしながらトランスサイエンスの領域はそうもいかない。


そもそも、どこに問合せたらよいか判断がつかない。
関わる領域は幅広く、まだ確かな情報も少ない事象。

一般の人にとっては科学に問うことすら難しい。
トランスサイエンスの前に科学の基本的な用語でさえどこに問い合わせてよいかわからない人もいるだろう。
先日参加した科学コミュニケーション研究会で拝聴した科学記者の話でも、取材力に長けた彼らでさえ、知らない分野のことは取材先を確保するに一苦労だという。

また、たとえエビデンスが提示されたとしても安全であるかどうかわかりづらい。
あるのはごく決められた条件下の元に算出された数値であったり、パラメータひとつブレるだけで結果が大きく変わってしまうようなデリケートなデータである。

それが正しいかどうかは専門外の分野は判断がつかない。

仮にリスクの評価はできても、リスク管理は誰がやるのか。やっているのか。
どこまでが安全で、どこからが危険なのか。閾値のないグラデーション。

そうして答のない答えを探して、
安心を求めてさまよううちに不安が不審となり、事態が悪化していく。

だから、
いざとなったらそこに聞けばよいという安心を得るために、トランス・サイエンスの駆け込み寺があればよいと思うのだ。


● その窓口を誰が担うのか。

科学(だけ)では答えることができないのだから、政治なのだろうか。

リスクのグラデーション上に線を引き、現時点での全体最適を図る。
どう動けば良いのかの羅針盤たる政治のコールセンター。

でもそれって、国民の代表機関としての国会であり、さらには行政権をもつ内閣、その長たる内閣総理大臣になってしまうのでは・・。

どうにも現実的ではない。

各省庁が実施するパブリックコメントはどうだろう。
これも情報を吸い上げるだけで答えてはくれない。
(一時的な回答としては載るが)
提案や意見を吸い上げることはできても、疑問・疑念には答えないし、そもそも全員の声に答えを返すにはコスト的に難しい。

それに政治は時として必要な情報を隠蔽する。政治的に。

たとえそうした政治コールセンターができたとしても
信用たるものなのかは、なかなか判断できない。

やはり政治は安心できる窓口になりえないのか。

そうなると直接、科学に問いを求めざるを得ないことになるが、前述の通り難しい。

一般市民のために自らコールセンターとなるべく声をあげた科学者が魔女狩りのように叩かれることもあるし、政治とともに動いた(ようにみえてしまう)科学者は御用学者として糾弾されてしまったり。

市民が持ち込んだ社会的課題を、科学者や専門家が調査・研究し、成果を社会に還元するという、ある意味、駆け込み寺的な役割を持つサイエンスショップという仕組みもあったが、いまは閉鎖してしまったようだ。
また、市民科学研究室のように継続している活動もあるものの、全国民の窓口になるには規模的に難しいし、もとより窓口となるために活動しているわけでもないだろう。

● 避けられない科学リテラシー教育

結局のところトランスサイエンスな事象に自分なりにベターな答えを導き出し、その時点での最適解を得るには、あまたある情報源から自ら答えを探しだしてきて判断するほかない。
そのために、ベースとなる知識の習得は避けては通れないし、科学的に考えることの訓練はどうしても必要になってくる。

「上から目線」となにかと叩かれやすいが、科学リテラシー教育は大事なのだ。

しかしながら、教育には時間がかかる。
学習にはコストがかかる。

あまたある差し迫っていない(差し迫っていると感じられない)リスクに対して、専門知識を習得していくモチベーションを維持することは難しい。
科学的に考えるとはなんぞやなどのメタな知識もしかり。

大抵の人は、合理的無知を選択する。

子どもたちには教育の仕組みをつくるとして、
強制的に教育される場からすでに離れてしまった大人たちはどうしたらよいのだ。


● ネットワークとしてのコールセンター

集約された窓口はない、科学リテラシーも乏しい大人たちはうろたえるしかないのか。
でも、未知の事象に対してはほとんどの大人たちがこの状態になるのではないだろうか。

たぶん、即効性のある銀の弾丸はないのだろう。

考えられる善後策はふたつ。

ひとつは、信頼できる自分だけの窓口を見つけること。

もうひとつは、大人になっても継続して学習できる環境を創ること。
学習のための気づきを得る場を設けること。


トランスサイエンスの窓口をひとつにに集約できない以上、各々が自分なりのコールセンターを持つしかない。

ひとつの情報源が100%信頼できなくとも、7割程度の信頼度をもったコールセンターを複数もてば、その中から最適解を選べがよい。
その判断基準となるべき科学リテラシー(というか科学を理解するリテラシー)は残された時間をかけて身につけるしかない。


最初の情報元は、学校の先生や、地域の博物館の職員かもしれない。
家族の知り合いのエンジニアかもしれないし、近所の元研究者もあるだろう。
逆に研究者が地場の産業従事者から貴重な情報を得られることも考えられる。

いずれ誰かが誰かのコールセンターになって双方向・多方向のコールセンターが構成されていけばよい。

窓口は自分の中にあり、コールセンターはネットワークの中に広く分散しているという考え方。


● サイエンスコミュニケーターの役割

そして、このコールセンターと、科学リテラシーを涵養する環境構築を担うのがサイエンスコミュニケーターではないか。


科学を学ぶきっかけとしてのサイエンスオブワンダーな面白イベント。
科学をわかり易く伝える講演会。
科学と向き合い自分なりの解釈を育むサイエンスカフェ。

研究成果を社会に発信する機関広報。

複雑な事象を解きほぐす場としてのワークショップやダイアローグ。
よりよく伝えるための手段としてのアートやデザイン。


トップダウンの情報を扱うマルチメディア。
市井の情報を届けるミドルメディア。
より幅広い知見を有する玉石混淆なソーシャルメディア。

地域に根差した情報を担う地域ネットワーク。

こうした様々な取り組みや手段が、ひとりひとりのネットワークコールセンターの大事な要素となっていくはずだ。

悲しい出来事やどうしようもない大きな問題が起きると、楽しいだけの科学ショーなんて・・・と言われる。
双方向性や会話の無い講演会は押しつけだなどと批判が起こることもあるけれど。
長い目で見ればどれもトランスサイエンスに向き合うために必要な要素のひとつ。

サイエンスコミュニケーションはこうあるべきと限定せずに、グラデーションのあるまま存在する形で良いと思う。

コールセンターが複数なら、サイエンスコミュニケーターも多様性があってよい。

あとは、グラデーションのあるサイエンスコミュニケーションのネットワークへの接続をどうするか。
サイエンスコミュニケーターからみたら、どう口を開けておけばよいか。

そのネットワークを整備し可視化していくおくことが、サイエンスコミュニケーション関連団体の役割だったりするのではないかと思ったり。


● 考察はつづく

個人的には“科学(と技術)を伝える”ことのテクニカルな部分に興味があってサイエンスコミュニケーション界隈に片足をいれているわけだけど、サイエンスコミュニケーション関連の勉強会やイベントに参加するたびに募るもやもや。
そのもやもやをもやもやのまま書きつらねてみた。


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2013/02/24 01:00 | サイエンスコミュニケーションCOMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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