額縁とは、またその役割とは -気になったので読んでみた2冊の本-

これからの美術館事典 (1)


額縁について書かれた書籍を見つけたので読んでみた。

ミュージアム周りを始めたのは、展示作品そのものよりも、展示手法や周辺技術に興味があったから。
いつのまにやら作品自体を楽しむことが多くなったが、展示を構成する要素は常に気になるところ。

作品と一番近い場所にある額もその一つ。

西洋絵画、特に古典絵画が収められている額装は、絵画と一体となって重厚な雰囲気を醸し出す。
額に入ってなければ作品自体の迫力も半減するのではないかといつも感じていた。
それは、日本画における掛け軸や屏風、襖を仕立てる表装にも通ずる。

先日、たまたま図書館で額縁に関する本を目にしたので手に取ってみた。
気になったところをメモしておく。


本書は、海外の学芸員が、額縁の歴史をはじめ、デザインや製作上のテクニック、インテリアと装飾に果たす役割について語っている翻訳本だ。




額縁と名画―絵画ファンのための額縁鑑賞入門

まず始めに気づかされたのは、額縁と絵画は必ずしも同じ時代のものではないということだ。
額縁と絵画が最初の組み合わせのまま保たれている例は極めて少ない。
展示される時代と場所により、額縁は取り換えられてきた。
(例外的に肖像画は、名門一族に代々受け継がれる性質である上に、額縁にサインが入るなど絵画と切り離されることなく当初のまま残っていることが多い)

言われてみれば当たり前のことではあるが、何となく作品と額縁の組み合わせは一つだと思い込んでいた。


歴史を紐解くと初期ヨーロッパの板絵とその画枠は、同じ木材から一体に掘り出したものだった。
現代のようなキャンパスが出てくる前の絵画の基材は板である。

教会内で祭壇画の役割を果たしていた宗教画などがその一例。
金メッキを施したり、扉をかたどった額は、構造上、絵と一体の作品になっている。

つまり現在のような額縁ができるまでは、額縁は、画家が絵筆をとる前にすでに取り付けられていて、物理的にも、芸術性の観点からも分解できないものであった。

やがて16世紀イタリアで、絵画の基材として板に代わってキャンパスが普及してくる。
それに伴って取り外しができる額縁の使用が増えてきた。
画家は額縁に金メッキなど重層な施しをするのをやめてしまったが、アルプス以北では留め付けた額縁が作られてつづけた。

17世紀、イタリアの宮廷は絵画コレクションであふれかえった。
コレクターたちは絵のかけ方に一定の決まりを設けて、スタイルの統一を図ろうとした。

壁面を建築の一部として装飾したイギリス。
宝石を飾るように、装飾性豊かな額縁にかざるフランス。

19世紀後半になると、新しい絵に古い額縁をつけるというアイデアが生まれる。
印象派の画家達が作品を引き立てるために敢えて古い額縁を使ったり、ひと手間加えてリユースしたりするケースが出てきた。
こうして中古額縁を使うというアイデアが登場し、画家や画商の間から始まって、美術館・ギャラリーまで広まった。


作品と一体だった額縁がやがて分離し、現在のような時と場所と扱う人の感性に応じて都度組み合わされる形になったことがわかる。


本書では他にも、額縁の基本構造や代表的な種類、装飾に使われている手法などが紹介されていた。

ロンドン・ナショナルギャラリーのコレクションから選りすぐりの作品が額縁と共にカラー図版で載っているため、絵を眺めながら基礎を学ぶことできる額縁の入門書といえる。


額縁とはなんぞやの基礎を学んだところで、気になってもう一冊読んでみた。

都内に額装スクール・額装ショップ&ギャラリーを開いている日本の写真家によって書かれた本だ。


額縁への視線―額装というデザイン

「額」から大きく視点を拡げた、「額装」というくくりで、その役割について書かれている。

額縁は額装を構成する一つの要素であるが、全てではないとし、絵画と額の間に在る余白からその延長線上にある壁面の装飾までが額装であり、さらには、空間全体の演出も含めて額装と捉える。
美術という極めて私的で神秘の創造活動と、見る、見られるという開かれた社会的な行為へと結び付けてくれるのが「額」そして「額装」の役目でもある。

額装には大きく分けて二つの要素がある。
絵画や版画、写真等を額によって直接保護、装飾するという意味での額縁の内部で完結する額装。
額に収まった作品が壁面から空間までに影響を与えるコーディネートとしてのトータルな意味での額装。


本書では、主に後者の役割について解説されている。
筆者が実際に経験した事例をベースにした考察が多く、欧米人と日本人の額装に対する意識の違いなど興味深い内容も多い。


作品を殺すのも活かすのも額縁次第といっては言い過ぎかもしれないが、額縁・額装が鑑賞者に与える印象は決して小さくは無さそうだ。

ミュージアム巡りがまたひとつ楽しくなった。


-----------------------------------------

額縁と名画―絵画ファンのための額縁鑑賞入門

はじめに
 額縁のない絵画
 絵画と額縁は主従関係
 専門用語

取り外しできない額縁
 古い画枠が生き残ったわけ
 はじめから取り付けられた額縁、一体に彫り出された額縁
 額縁と絵画の連続性

取り外しできる額縁
 ◆オリジナル額縁
  絵と相性のいい額縁
  十九世紀の額縁、額縁はどのように選ばれたか
  印象派の好んだ額縁と中古額縁
 ◆タベルナクル額縁と箱型額縁
  タベルナクル額縁
  箱型額縁
  木肌をあらわした額縁(金めっきをしない木の額縁)
  リバース型額縁
  金めっきと銀めっき
 ◆コレクターのための額縁
  部屋いっぱいの絵画コレクション
  シャッター付き小額縁
  オランダの額縁
 ◆ギャラリー用の額縁
  流行したローマの額縁
  建築家がデザインしたイギリスの額縁
  フランスの美麗額縁
  名工の彫るバロック額縁

基本構造と細部
 パスティーリャ
 型成形による装飾
 フランス製額縁の質感
 水性めっきと油性めっき
 装飾部品を別づけにした額縁
 再めっきされて損傷した額縁
 修復作業

-----------------------------------------

額縁への視線―額装というデザイン

プロローグ ◆ 《モナ・リザ》の額
第一章 ◆ 「額」から「額装」へ
「額」への視線/額から額装へ/額装とは何か
第二章 ◆ 額の歴史、額装の変遷
洞窟壁画/教会の宗教画/板絵からキャンバス画へ/デッサンと版画と紙/フランスでの額の完成/日本の額の歴史
第三章 ◆ 額装というデザイン
見るということ/なぜ額装するのか/余白の美/色と額装/服装と額装・表装/保存と装飾/額装をデザインする
第四章 ◆ 額と家具、額装とインテリア
インテリアと額/メディアの中の額/商業空間における額/額は家具だ/アーティストにとっての額装/個人にとっての額装
第五章 ◆ ヨーロッパの壁と日本の壁
フランスの額事情/自然災害と日本人/日本建築と壁と禅/日本の現代建築/しまう文化(浮世絵)/見せる文化(写真)/箱文化/日本の額と壁事情
エピローグ ◆ ゴッホの額
-----------------------------------------
関連記事
.02 2015 展示 comment0 trackback0

comment

post comment

  • comment
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackback

trackbackURL:http://btobsc.blog25.fc2.com/tb.php/772-b4a84941

プロフィール

k_2106

Author:k_2106
科学好き
博物館好き
魚好き


このブログ方針みたいなもの"

最近の記事

●全ての記事はこちら

フリーエリア

タグcloud

ブログ内検索

ブロとも申請フォーム

QRコード

QRコード

コメント・ご質問はこちらまで

名前:
メール:
件名:
本文:

カウンター